Pedagogical Contents Knowledge (PCK)と授業研究
2009年 06月 05日
教師が授業をするときには、二通りの知識が必要とされます。1つは教える内容の知識で、Content knowledge(コンテントナレッジ)と言われます。算数や数学や英語やコンピュータ、先生が出来なければ、それを教えることもできません。だからといって、Content Knowledgeばかりがあっても、いい授業はできません。英語がバリバリ話せるから英語が教えられるかというとそうでもないし、コンピュータがバリバリできるからと言って情報教育ができるわけではありません。名選手必ずしも名監督ならず、とはよく言ったものです。
もう1つは教え方の知識で、Pedagogical knowledgeと言います。例えば、子どもの理解に沿って、どうやって授業を組み立てたらいいか、どうやって専門用語をかみ砕いて説明したらいいか、板書の書き方はどうすればいいか、そんな知識です。けれど、教えるのに必要な知識、Pedagogical knowledgeだけがあっても、いい授業はできません。いくら授業が上手で、子どもたちのやる気を引き出すのがうまい先生でも、自分の全然知らないこと、できないことを、最初から上手に教えるのは難しいわけです。ですので、新しい教科が増えたときなんかは、先生は大変です。小学校英語なんかがそうですね。あるいは高校の情報科なんかもそうです。
というわけで、教師にはContent knowledgeとPedagogical knowlegeが必要なんですが、Shulman以前は、それぞれ、別々に考えられてました。けれど、これらは切り離して別々に扱えるもんではないんですね。教え方というのは、内容に密接に関わっています。例えば、子どもたちには、口だけで説明するよりも、実際に手を使ってやらせたほうがわかりやすいっていうのは教え方の知識です。けれど、じゃあ、具体的にどうやって教えたらいいのかは、実際の内容がないと組み立てられない。つまり、一般的な「教え方の知識」というものはあるけれど、実際には、「分数のかけざんを小学5年の子どもに教える教え方と内容の組み立て」とか、「標本調査法のよさを小学6年の子どもたちに教える教え方と内容の組み立て」とかいうように、内容とセットになった個別具体的な教え方の知識があるわけです。そういうわけで、教師の頭の中では、教える内容と教え方が相互に関連しながら存在するわけです。
Content knowledgeでもない、Pedagogical knowledgeでもない、 それらが関連しながら成り立つ知識のことを、Pedagogical content knowledge (PCK) ペダゴジカル・コンテンツ・ナレッジといい、それが教師の専門性ということになります。
PCKを発達させるためにはどうしたらいいのか。これが教師の専門性育成の課題になりますが、なかなか難しい。なぜなら、PCKは、実践の知識で、実践を通して獲得されていくものだからです。ただし、現場で放っておいてPCKが勝手に獲得されることを期待するのではなく、やはりそこには仕掛けが必要になってきます。授業研究、教材研究の意義もここにあるわけです。
特に、授業研究は、目の前の生徒の事実から学び、PCKを育成していくというところに意義があります。そして、PCKを育成する効果的な場とするためには、授業研究のデザイン(研究授業や事後討論会のプロトコル)やツールキット(指導案のフォーマット、研究授業の際のデータ収集のフォーマット)といった仕掛けがしっかりしていないといけません。また、授業研究の評価においても、教員のPCKがどれだけ広がったか、深まったかを評価尺度に含めることが、授業研究の改善につながってゆきます。
(Shulman, L. S. (1986). Those Who Understand: Knowledge Growth in Teaching. Educational Researcher, 15.)
Lee Shulman - Wikipedia, the free encyclopedia