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中植正剛 神戸親和女子大学准教授 教育工学を専門にする大学教員の日々の雑感


by toshishyun

授業研究と職場の雰囲気

授業研究をプロフェッショナルディベロップメントとして見ると、教師の効果的な学びのための共同体として、3つの要件がある。

1. 教師が教えるということを見直し、再定義できるような学びの共同体であること
2. 教師に対しては、あらかじめ決められた「教え方」を教えるのではなく、教師自らの学びが活性化されるような共同体であること。
3. お互いを信頼し、批判を恐れずに討論できる共同体であること

(WILSON, S. M., & BERNE, J. (1999). Chapter 6 : Teacher Learning and the Acquisition of Professional Knowledge: An Examination of Research on Contemporary Professlonal Development. Review of Research in Education, 24(1), 173-209. doi: 10.3102/0091732X024001173.)


日本人は批判や意見の受け取り方が苦手だから、とりわけ3が難しそうだ。アメリカ人は、批判・意見と個人の人格を、比較的切り離して考えている。しかし、日本人は、批判・意見と個人の人格の重複している部分が大きいので、他人の意見や批判を「自分自身」に向けられたものと受け取って傷つきやすい。「上から目線」「生意気」などと言われるように、批判や意見を言った人に対する風当たりもかなりきつい。職場によっては、例え研修であっても、下手な批判や意見を言うと、同僚や先輩や管理職から総攻撃を食らうことになる。

そういうことのないような、信頼できる土壌、安心して批判や意見をやり取りできる土壌は、普段の何気ないやり取りから形成されるものだろう。批判・意見と個人の人格が切り離せない日本では、より一層、普段からの関係づくりが大事になる。普段から上司や管理職が人の悪口ばかり言ってるような学校では、校内の授業研究を活発な学びの場にすることはできないだろうし、普段から批判や意見を言ってもそれを受け入れることのできる先輩や管理職がいる学校では、授業研究や教員研修でも実りのある学びの場になるだろう。そう考えると、授業研究にとって、学校のリーダーの人柄というのは実に大きなものだと思う。
# by toshishyun | 2009-06-04 09:04 | ラーニングとテクノロジー

ワシントン州 尊厳死

アメリカではオレゴン州とワシントン州で、医師の幇助による尊厳死が認められています。

ワシントン州はイチローのシアトルマリナーズで有名ですが、3月に尊厳死を認める法律が成立しました。

今朝出勤しながらラジオを聞いていると、そのワシントン州で、末期がんの女性が、医師の処方による薬品によって尊厳死したことがニュースで報じられていました。初の事例ということです。

尊厳死については賛否両論ありますし、あまり深く考えたことはないので、ここで私見を述べることは控えたいと思います。ただ、アメリカで末期がんや不治の病に罹った人とその家族にとって、ワシントン州やオレゴン州が存在するという事実は、人によっては救いになることだと思いました。

日本だと、国内すべてを同一基準にしなければいけませんが、アメリカはよくも悪くも、各州で法律が大幅に異なっています。自分の生き方や家族の生き方に大きく影響するような課題に対して、選択肢が与えられているというのは、いいことだと感じます。

すべての問題に対して、完璧に対応できる政治体制というものはありません。アメリカのような連邦制がよいのか、日本のような中央集権がいいのか、それは何をとって何を捨てるのかという問題のように思います。今日のこのニュースを見て、多様な人の多様な生き方に応えるような体制になっているのがアメリカという国なんだなぁと改めて思いました。ただし、いちいちバラバラなので、何か事があるたびに、日本よりひと手間多いのも事実です。
# by toshishyun | 2009-05-23 14:41 | アメリカ文化

メモリアルディ

月曜日はメモリアルディで、アメリカは3連休を迎えます。メモリアルディは、戦没将兵追悼記念日という日で、各地で戦没将兵の追悼イベントが行われるだけでなく、家族で集まってバーベキューをしたり、レクリエーションをしたり、墓参りに行ったりします。スタンフォード大学も月曜はお休みです。

僕の友人たちでも、東海岸や南部に実家がある人は、何人か実家に帰っちゃいました。日本で言うところのお盆みたいなもんです。

そして、なぜかシートベルト着用キャンペーンが始まります。今日の出勤時にも、ラジオのニュースでシートベルトをつけましょうという報道が何回もされていました。

この日からアメリカは夏が始まります。

なお、景気はますます悪化しています。カリフォルニアは、火曜日に、景気悪化対策の5つの法案が、住民の直接投票によって否決されてしまいました。税金も上げられない、支出も抑えられない、教育や精神障害者の援助予算として貯蓄されていた緊急出動用のファンドにも手をつけられない、で、どうしようもなくなってしまいました。識者の間では、今回の投票を批判する意見が多いです。あたりまえです。

リーマンショック以降、しばらくは、「景気はまぁ1年もすれば持ちなおすだろう」などという楽観的な意見がけっこう聞かれていたのですが、もはやそんな意見は少数派。火曜日のカリフォルニアの直接投票の結果によって、さらに不況感が強まったという感じです。これから、大量の解雇が始まり、カリフォルニアの失業率は当面持ち直しそうにありません。
# by toshishyun | 2009-05-23 05:25 | アメリカ文化
【8】「マスクをすると仕事ができません」。新型インフル対策の温度差:日経ビジネスオンライン

日本はかなり欧米化されているので、こちらに来ていても、食べ物や習慣などは、文化の違いがなかなか見えにくいと思うことがあります。もちろん、レストランでチップを払うとか、家のなかで靴を脱ぐとか、銃持っちゃいけないとか、そういう違いはたくさんありますし、「ほぅ、そうなのか」と思うこともあります。しかし、なんかこう、「本質的に決定的に異次元に文化が違う!」って強く感じることはそれほど多くありません。むしろ、「結局人間の文化だから、違うところはあっても、共通するところのほうが多いよなぁ」って思うことのほうが多いです。

これは、単に鈍感なだけなのか、それともすでにかなりアメリカ文化に溶け込んでいるからなのか。

ところが、人の本性って、危機のときに出るっていいますが、今回の新型インフルエンザは、外から見ると日本人の本性がよく見えるし、日米の違いが見えて興味深いなぁと思っています。


 「米国でマスクをしていると仕事になりません。やむを得ず、自分の判断で外しましたので、ご報告します」


こんなことを律儀に報告するところが、日本人だなぁと思います。

この報告メールは、日本人の目で見ると、会社の通達に忠実な社員と評価できますが、外からの目で見ると、コントに見えるようです。なんでもかんでもトーキョーに問い合わせる日本のビジネスマンというのは、アメリカのジョークにもちょくちょく出てきます。(例えば、無人島で美女と二人きりになったサラリーマンが、どうしていいかわからずにトーキョーのホンシャに問い合わせる)。この手のジョークを読んで、僕は80年代のバブル期のジャパニーズビジネスマンを想像して笑っていたのですが、最近のインフルエンザの反応を見ると、ちょっと笑えなくなってきました。

しかし、いろいろなところで「日本人は過敏すぎるんじゃないか」という意見があっても、「欧米人は鈍感すぎるんじゃないか」という意見はあまりありませんね。どこかで自分たちでも、「うーん、過敏すぎるけど、人に迷惑かけたとか言われたら嫌だし面倒だからとりあえず言われた通りにしとくか」って意識もあるのかもしれないですね。

関係ないですけど、致死率0.4%のインフルエンザでもここまできっちり対応するのなら、過去15年で45万人以上が死んでいる、「自殺」の問題を、日本人として、なんとかしなくちゃいけないなぁと思います。

パンデミック寸前のインフルエンザにかかる可能性よりも、一生のうちに自分や身の回りの人のうちの誰かが自殺する可能性のほうが高いわけで、そういうことを心配しなくちゃいけない社会はちょっと悲しすぎます。

いまのところ、新型インフルエンザは全世界で死者80名。これは軽く扱える問題ではありません。しかし、統計的には、日本では、自殺で毎日100人ずつ亡くなっていることになります。過去15年の45万人という数字は、神奈川県横須賀市や愛知県豊田市や兵庫県西宮市のような、中核市と呼ばれる規模の都市で、住民が全員自殺したのと同じくらいの数字になります。これは自己責任ではなく、社会問題でしょう。

自殺が多いのは、今度のインフルエンザみたいに、日本人は「人に迷惑かけちゃいけない」という意識が強すぎるからかなぁ。周りからのほんの少しの理解と愛情で救えるものなのになぁ。話は脱線しましたが、そんな風に思います。
# by toshishyun | 2009-05-21 01:02 | その他
新型インフル 「外出あかんで」休校で先生が繁華街見回り(毎日新聞) - Yahoo!ニュース

日本の先生は本当によく働く。生徒の社会性の部分まで引き受けてる。こんなの、アメリカでは絶対にありえない。労働組合が許さないし、かならず高額な手当てを要求される。なにより、学校は勉強の面倒を見るところで、学校外の生徒の行動に干渉するという意識もない。

苅谷さんの「よくばりすぎる日本の教育」にもそういうことが書いてあったっけ。欧米では少年刑務所が多いが、日本では学校が非行の処理をするから、そのぶん少年刑務所が少ない.

しかし、ここまでやる必要があるのか?子どもたちが外で問題起してたらすぐに学校に通報する人がいるしなぁ。いったい親は何やってるんだ?

日本は、学力で言うと、PISAでもTIMSSでも、両方で高得点を挙げている数少ない国で、PISAで第一位のフィンランドでも、TIMSSは中段に沈んでいる。学力でもそれだけの成果をあげ、しかも生徒指導では、世界に類をみないほど、生徒の社会性や学校外の行動まで面倒をみる。それだけ良い教育を日本は持っている。

もっともっと学校や先生は評価されるべきだと思う。政治家のパフォーマンスにつられて、学校を叩きまくって、学校や先生はダメだというメッセージを発し続けるマスコミや、それを鵜呑みにする人たちには本当によく考えてほしい。そう思う。
# by toshishyun | 2009-05-21 00:39 | その他