中植正剛 神戸親和女子大学准教授 教育工学を専門にする大学教員の日々の雑感


by toshishyun

協同的問題解決のための電子黒板 試考

ツイッターというのはありがたいものだ。今日の午後にツイッターで知り合った富山県の小学校の先生が「電子黒板を思考の道具とするには」という課題を提起されたことが、自分なりに協同的問題解決の道具としての電子黒板について考えをすすめるきっかけとなった。

前提として、探求型のプロジェクト型学習ではなく教科指導という枠で考えることとした。

まずは、電子黒板というツールについて考える前に、通常の授業で次のことができているか再度チェックする必要があろう。

1. 課題提示に工夫があるか : 電子黒板を協同的問題解決の道具とするためには、課題が多様な思考を誘発するものでなければならない。単線的な思考を生み出すだけの課題では、協同思考の道具を用意しても深みのない活動になってしまう。

2. 生徒の個々の問題解決過程を可視化できているか : 教科の内容としての記述である対象記述に加えて、問題解決過程の記述であるメタ記述が普段からしっかりと可視化されているか。ノート指導や発表の中で、メタ記述を表現させる手立てができているか。また、そのようにして出された思考過程の共有ができているか。思考の結果ではなく経過がリアルタイムに共有されているか。

3. 机間指導を中心とした、形成的評価と支援ができているか :協同思考をコーディネートする教師として、生徒の思考を瞬時に拾うことのできる手立てがあるか。教育的な瞬間をみとって必要な支援ができているか。これは2のメタ記述の可視化がしっかりとできていないとおぼつかない。

これらの点が普段の授業で充実していなければ、電子黒板を協同思考の道具と位置づけるのは難しかろう。特に2を現状の授業の中で充実させることのよさは、電子黒板上における活動を、単なる発表会ではなく協同問題解決として展開するために重要な点であると思われる。

・・・このようなことを考えていると先の先生から指摘があった。「子どもたちの思考過程がノートに残り、それを教師がチェックして個別指導したり、面白い考えを拾って全体で話し合ったり。ん?今のノート、黒板の授業とどう違うんだ?」

ここで再びツールとしての電子黒板について考えなければならないだろう。子どもたちの思考過程、教師の個別指導、全体での練り上げ・・・その中で普通の黒板とは違う電子黒板のありかたとはどのようなものだろうか。

現行の電子黒板は提示の装置としてデザインされており、協同思考の装置としての機能は弱い。というわけで、デザインそのものからやり直す必要がある。しかしそれを言ってしまえばおしまいなので、協同的問題解決のツールとしての電子黒板として最低これは必要という機能を挙げたうえで、いまの電子黒板でできそうなことを探ってみる。

まずは現行の電子黒板を無視して、協同的問題解決のツールとしての電子黒板に必要な機能を考える。

1. 各生徒にデジタルガジェットを持たせて、それらの画面を電子黒板に転送・投影したり、電子黒板の画面をガジェットに転送する仕組み: つまり、協同的思考の場と各生徒の個人思考の場を往還する仕組み。現状のように教師が板書に生徒のノートを転記するのは時間の無駄。ワークフローを改善すべき。さらに、電子黒板&デジタルガジェットの特性であるマルチメディアコンテンツを取り扱うことで、問題解決のプロセスそのものが黒板&ノートのコンビとは違ったものになることが期待できる。

2. 複数の生徒が同時に電子黒板の制御権を獲得できるようにする仕組み: 一人で制御するというデザインでは提示装置の粋を出ない。現行のままでも、会議におけるホワイトボードと同じように誰かが操作をしながらみなでそれを話し合うということもできる。しかし、協同で思考をすすめるためにもう一歩進んだ機能を織り込んで、それを新しい形で活用し、授業を変革する工夫を模索することが教育を進化させるということだろう。

3 協同思考のための統合ソフトウェアを開発する :1,2が実現しても、教師が独自に協同思考のためのソフトウェアを開発していては普及はおぼつかない。テキストを含む様々なマルチメディア教材と、1,2を統合して処理できるようなラーニングマネジメントシステムの開発が不可欠。各教室の学びを学校全てで共有したり再利用する機能も不可欠

それから、電子黒板は50インチ程度ではとてもではないが小さすぎるという点も指摘したい。

以上の点をふまえて、現行の電子黒板でとりあえずアプローチがはじめられるのは2であろう。

イメージ的にはマイクロソフトのMischiefが近いかもしれない。友人が開発に関わっていて、ホームページで紹介しているのだが、これはプロジェクターに接続した1台のパソコンに20数台のマウスを接続して、複数の生徒のマウスポインターが画面に現れるというものだ。

http://moraveji.org/projects_med.html

アルファ版が日本語でも出ており、パワーポイントのアドオンとして利用できる。

http://www.microsoft.com/japan/multipoint/mouse-mischief/default.aspx

もともと、予算の少ない発展途上国向けに開発されたソフトなので、必要な台数のマウスさえ揃えれば使える。ただし、教師が用意した多肢選択式問題を回答させるというような使い方しか想定されていないようで、問題解決学習の練り上げのような高度なことはできないのが痛い。しかも、文字入力もできない・・・。もっと調査が必要だ。
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by toshishyun | 2010-06-27 22:57 | ラーニングとテクノロジー