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中植正剛 神戸親和女子大学准教授 教育工学を専門にする大学教員の日々の雑感


by toshishyun

校務の情報化セミナー出席

大阪で行われた、スズキ教育ソフト主催の校務の情報セミナーに出席。各校の情報担当教師、教育委員会の情報推進担当に混じって、大学教員の出席者は私一人のようだった。

発表者は 1. 三木市立自由が丘小学校 水野ルミ先生、2. 札幌市立山の手南小学校 新保元康校長、3. 深谷市教育委員会 強瀬雪乃先生 の3名。玉川の堀田先生がコーディネート。

校務の情報化に関する講義をするにあたって現場の事例を知れるのはありがたいことである。また、堀田先生からは貴重な視点をいただいた。

今日の要点は、校務用PCと校務ソフトはセットで導入しなければならないこと。それは、校務ソフトを活用することで、校務の効率化という量的なメリットとともに、蓄積された情報を共有することで、生徒指導や学校経営に活用するという質的なメリットが期待できるからである。校務ソフトが導入されない場合は表計算ソフトで処理することになるが、この場合、設計担当者に依存過多となる問題、教員のPCスキル格差の顕在化の問題、情報の散逸による情報セキュリティと情報の非共有の問題が生じることとなる。

校務ソフトを活用した校務の効率化については、名簿作成、成績処理、通知表作成、指導要録作成の業務フローをDBでつなぐことによって、単に事務作業にかかる時間を圧縮するだけでなく、業務フロー改善による効果が得られるということであった。業務フロー改善については、山の手南小学校 新保校長から出席簿と健康観察簿の作成に関する事例が提供された。これについて堀田先生の解説が入った。校務ソフトの導入時には「うちの学校にあったものを」という要望がよく出されるが、このようなアプローチでは、元々の業務フローがまずい場合はそれを増幅させるという可能性があり、むしろ校務ソフトの導入を機にそれに合わせて業務フローを改善する機会にもなるだろうということ。水野教諭は、従来に比べて校務処理にかかる時間が半減、持ち帰り仕事が激減、放課後に余裕ができたという感想を寄せられていた。

情報の蓄積と共有を通した生徒指導・学校経営への活用については、いくつかの事例が紹介された。山の手南小学校では、健康観察簿+出席簿の共有を校長がリアルタイムでチェックして、休校等の処置の判断をするということであった。深谷市教育委員会の取り組みとしては、校務ソフトのOJTで、若い教師とベテランの教師を組ませて通知表を作成させることで、システムに入力した複数の教師の児童を見る視点を共有しながら若い教師の児童を見る目を育てるという事例があげられた。

なお、深谷市では市内すべての小学校に同一の校務ソフトが導入されているということである。こうなってくると、校務システムのデファクトスタンダードがどこになるかが気になるところだ。スズキ教育ソフトは1校あたり50万円だそうだが、この価格だとかなり普及するんじゃないかと感じた。今日触ったデモの感じでは、インターフェースや操作性もかなりよかったし、校務が簡潔に整理されていて作業の流れがスムーズにいくという感じだった。一緒にデモを体験した和歌山県の某市教育委員会の指導主事と話したところ、現場のかゆいところにも手が届くようなデザインになっているようだ。

堀田先生は「専門職としての教師」という視点を軸に据えて校務の情報化の意義を語られた。専門である生徒指導と学習指導、これらを支援するための情報化とは何かという問いを立てながら校務の情報化を語らなければならないというお話。「楽になりながら、パワーアップ」というフレーズは、情報化の本質をズバリ言い当てたものだと思う。それから、情報担当教諭のような情報処理に慣れた人間にはある意味盲点だと思うのだが、教師は児童の成績や実態を概ね把握しているのになぜデータベース化しておかなければならないかという理由として「忘れることもあるから」という理由を挙げられていた。ちなみに本日デモで体験した校務ソフトでは、児童・生徒の日々の様子を複数の教員が随時書きこめるようになっており、日々の生徒指導や学校経営の参考として閲覧できるだけでなく、学期末の所見の作成時に参照できるようになっていた。

振り返ってみれば今日聞いたような話は前からわかっていたことも多いけど、いつのまにか自分のなかで逸散して曖昧になっていたことだった。まるで散らかっていた部屋を整頓したように、再び自分の中で整理された。今日は出席してよかった。

できることなら、大学の教員養成の講義で校務ソフトを学生に体験させてやりたい。というよりも校務ソフトを体験することなしに、校務の情報化を講義だけで話しても実感として理解はできないだろうと思う。せめてスクリーンショットを見せながら校務ソフトの処理の流れをつかませたい。携帯は毎日使っても、二週間に一回しかパソコンを使わないというのが平均的な学生だし、グループウェアなどほとんど使ったことがない。ましてや基幹系の業務支援システムに触れたことなどないだろう。食べたことのない料理の味の良さを説明するような授業は、聞くほうも教えるほうもしんどい。
by toshishyun | 2010-05-29 23:16 | 教育の情報化