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中植正剛 神戸親和女子大学准教授 教育工学を専門にする大学教員の日々の雑感


by toshishyun

分数の問題です

あなたは次のような問題を解くことができますか?

「あなたは、もらった給料のうち、1/5(5分の1)を食費に使いました。残った分の1/2を家賃にまわしました。さらに、家賃を支払った残りの7/10を遊びに使いました。すると手元に30000円残りました。さて、給料はいくらだったでしょう」

これは、友人が現在行っている調査で使われた問題を、内容を変えないで少しだけ修正したものです。小学校高学年程度の問題です。

友人の調査では、10人中、ヒントなしで正解できたのは1人、ヒントをもらって答えられたのが1人、ということで、正解は合計2名だったということです。

問題はこの調査の対象が誰だったかということです。

これは、アメリカの、とある平均的な大学の教員養成課程の学生の結果なんです。しかも、分数に関する授業を受講した直後の調査です。

驚きましたか?僕は驚きました。

しかし、これは特殊なことではありません。一般的に言って、アメリカの小学校教員の算数のレベルはだいたいこんな感じなのです。

もっと簡単な問題、たとえば、

「お米がカップに3/4入っています。いま、入っているお米の1/2を使いました。さて、使ったお米は何カップ分でしょう」

のような問題でも、正解は10人中4人です。

聞いたところ、算数に難ありの学生でも、ほぼ全員が現場の教員になります。

ただし、算数ができないからと言っても、こっちの先生は、算数に関する議論になったときに、驚くほど雄弁に語ります。なんとかストラテジーがどうとか、特別支援教育の子へのアプローチとか、個別習得がどうとか、エンゲージメント(取り組み)がどうとか、問題解決方略がどうとか、プロポーショナルリーズニングがどうとか、マイノリティーのための算数がどうとか、なんせ、話だけを聞いていれば、とてつもなく高度なことを話しているかのように聞こえます。

算数そのものの定義すらひっくり返そうとする人もいます。たとえば、計算ができなくても、しっかりと考えを図などで表すことができなくても、算数っぽい考え方を少しでもしていて、算数っぽい図を少しでも描いていたら、それは算数をしていることになるんだというような、すり替えです。出来なかったことでも、見方を変えて、あたかも出来たように見せるわけです。

けれどやっぱり、肝心の、算数が出来ないという冷たい事実は覆せないのです。

アメリカの算数教育は問題が山積みです。日本よりも深刻な問題がいっぱいあります。

そこに果敢に挑んで、一生懸命研究をすすめている友人たちは、本当に大変な仕事をしているんだなぁと実感することしきりです。
by toshishyun | 2009-05-07 15:13 | ラーニングとテクノロジー